東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2363号 判決 1974年10月28日
控訴人
田口勝男
右訴訟代理人
鈴木政勝
被控訴人
国
右代表者
中村梅吉
右指定代理人
玉田勝也
外二名
主文
原判決を取り消す。
本件を横浜地方裁判所に差し戻す。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。本件を横浜地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の関係は、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一控訴人の本訴請求は、本件土地はもと田口寅次郎の所有であつたが、同人の死亡により家督相続人なく絶家となり、右土地は無主物となつて国庫に帰属し、国の所有するところとなつた。しかし、控訴人は右土地を時効取得したので、代位登記(不動産登記法四六条の二)により田口寅次郎から国への所有権移転登記手続および国から控訴人への所有権移転登記手続を求めるものであることは記録上明らかである。
ところで、原審は、本件土地の所有権は田口寅次郎から国庫に帰属しておらず、結局被控訴人は右土地に関しなんら権利義務関係を有せず、本訴は右のような被控訴人に対し前記のような登記手続を求めるものであるから、訴の相手方を誤つた不適法なものであるとして、訴を却下したものであることは、原判決上明らかである。
二さて、本件はいわゆる給付の訴であるところ、給付の訴においては、自己が給付請求権者であると主張するものが原告たる適格を有し、原告がその義務者であると主張するものが被告たる適格を有するのが原則である。ところで、控訴人の主張によれば、本件土地はもと田口寅次郎の所有であつたが同人の死亡により家督相続人なく絶家となり、右土地は国の所有となり、ついで、控訴人の所有となつたというのであるが、絶家の場合には相続財産法人がつくられ、それに属する土地が国の所有となつたとすれば、相続財産管理人が国に対してその旨の登記をすることになるから、控訴人は国に対し、国は田口寅次朗の相続財産管理人に対して所有権移転登記請求権を有すると解すべきである。すなわち、この場合控訴人は、民法四二三条、不動産登記法四六条ノ二により、自己の国に対する登記請求権を保全するため、国に代位して田口寅次郎の相続財産管理人を相手とり、田口寅次郎から国への所有権移転登記手続を請求することができるのであり、この場合の登記義務を負うのは右相続財産管理人であり、被控訴人ではない。またもし、原判決の判断するように(原判決六枚目裏四行目以下)絶家の効力が未確定で、本件土地の所有権がいまだ国に帰属していないとすれば、国は本件土地の所有者として控訴人に対し本件土地の所有権移転登記手続をすべき義務はないことになる。そうすれば、いずれにしても、被控訴人は控訴人主張の登記義務を負わないのであるところ、これが登記義務を負うものとして登記手続を求める控訴人の本訴請求中請求趣旨1は、理由がなくこれを棄却すべきである。
三次に、控訴人は本訴請求中請求趣旨2において、本件土地は被控訴人の所有であつたが、控訴人がそれを時効により取得したとして、所有権に基づき被控訴人に対し所有権移転登記手続を求めている。これに対し、原判決は、被控訴人は本件土地の所有権を取得しておらず、相手方を誤つた不適法な訴であるとして訴を不適法として却下した。そこで考えるに、被控訴人が本件土地の所有権をいまだ取得しておらないものであるとすれば、控訴人が本件土地の所有権を時効により取得したものであるかどうかについて判断するまでもなく、控訴人の被控訴人に対する右請求趣旨2は理由がないものといわなければならず、これを棄却すべきである。
四これを要するに、原判決は本案につき審理裁判すべきであるのに、本訴を当事者適格を欠く不適法なものとして却下したのであるから、原判決は違法で、取消しを免れない。そこで、民訴法三八八条を適用し、主文のとおり判決する。
(満田文彦 真船孝允 鈴木重信)